背景と趣旨

地域医療・介護現場でのロボット・ICTの活用については、経済産業省・厚生労働省が平成29年度に重点項目を拡張しており[ⅰ]、また厚生労働省では平成30年度介護報酬改定において介護ロボットが取り上げられる[ⅱ]など社会実装に着手されている。
研究面でも、高齢者に対するSocially Assistive Robot(コミュニケーションロボット)をはじめとするICT/AIテクノロジー導入の効果に関しては近年エビデンスレベルで高い評価を得るものが多く報告されるようになった。これらは内閣府の提唱する「Society5.0」[ⅲ]の具現化でもある。これらの発表は、ひとつはA)情報処理系・ロボット系の学会領域[ⅳ]、またひとつはB)老年医学系・地域医療介護系・精神医学系の学会領域[ⅴ]で行われることが多い。A)でも多くの研究者が生体レベルでの応用を目指しているし、B)でもICT/AIを医療介護に応用した多くの取り組みが行われている。しかし、A)とB)両方に顔を出してみると、A)とB)の関係者が交わる機会が少ないように感じられる。実にもったいない話である。一方の専門家からのほんの簡単な助言で他方の報告がすごくよくなるだろうに、と感ずることがとても多い。地域医療介護の世界はカオスでアナログ、ICT/ロボットはロジカルでスマート、と反目しあっているわけでもあるまいが。A)もB)の調査研究も、最初は実験室で次いで大きな病院や高齢者施設などで行われたものが多かった。しかし、本当の課題は、在宅や地域にある。65歳を超える高齢者は2016年に総人口の27.3%となった。我が国は世界で見ても飛び抜けた高齢社会なのである[ⅵ]。さて、この高齢者はどこに住んでいるか?65歳以上の高齢者のいる世帯数は、昭和55年(1980年)全世帯の24%から平成27(2015)年には47.1%とほぼ倍増した。そのうちひとり暮らしの方は、平成27年では男性で13.3%、女性で23.4%であり、昭和55年と比べるとそれぞれ約4倍、2倍にも上る[ⅶ]。誰かがなんとかしてこれらの独居高齢者に「住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に」(地域包括システム)[ⅷ]提供せねばならない。ここがこれからの主戦場である。“Gerontechnology”と欧米でいう範疇に入るのであろう、「老年医工学」とでも訳すのであろうか。ただ、この地域包括ケアの場で調査研究や実証実験を行うのはヒト・場所・技術がマッチせぬ場合は簡単ではない。この新しい研究会(略称FTIC:エフテイック)の目指すものは、「高齢者の生活の質向上」を目指す新しいツールを希求し「地域医療介護の最前線を支える関係者」の負担軽減に寄与する未来志向の仕組みを切望する実践家や研究者と、自らの研究や事業を「本当の現実社会のなかで役立つものにしたい」と考えているICT/AI/ロボット研究者開発者や企業家との出会うResearch Network である。お互いにとって有能なパートナーをぜひ見つけていただきたい。

各領域での心あるチャレンジャーを募る。

2018年10月吉日

地域包括ケアのための未来型テクノロジー研究会
Future Technologies for Integrated Care Research Network (FTIC)

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[ⅰ] 経産省「ロボット技術の介護利用における重点分野」を改訂2017.10
[ⅱ] 厚生労働省 平成30年度介護報酬改定における各サービス毎の改定事項について
[ⅲ] Society 5.0(内閣府)http://www8.cao.go.jp/cstp/society5_0/index.html
[ⅳ] 例えば、SICE, ロボティクス・メカトロニクス講演会, 日本ロボット学会など
[ⅴ] 例えば、日本老年医学会、日本認知症ケア学会、日本老年精神医学会、日本遠隔医療学会など
[ⅵ] Japanese Ministry of Health, Labour and Welfare. White Paper on Long-term Care Personnel and Labour. 2016. MHLW. Tokyo, Japan.
[ⅶ] 平成29年版高齢社会白書 http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2017/html/zenbun/index.html
[ⅷ] 地域包括ケアシステム 厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/